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マカオ カジノ産業20年の紆余曲折 20 Years of Gaming Twists and Turns in Macau

著 = ジョージ・ゴディーニョ教授(ゲーミング法, マカオ大学客員教授)
Author = Jorge Godinho (gaming law professor)

2019年12月20日、マカオ特別行政区は誕生からちょうど20年を迎えました。ゲーミング産業においても、この間には紆余曲折がありました。中国に返還されたとき、誰もがSTDMのカジノ営業権(concession)が2001年に失効し40年にわたる1社独占が終わることを知っていました。すでに3つのカジノ営業権が発行されることが決まっていたのです。もちろん、3つでは足りないという意見もありました。
2001年から2002年に行われたカジノ営業権の公開入札には21社が名乗りを上げました。ラスベガス・サンズは当初、ある企業との提携を模索しましたが、結局はギャラクシー(香港)と組むことになりました。しかし、すぐに両者の間に意見の相違が生じ、2002年末に「二次ライセンス(subconcession)」というものが創出され、ラスベガス・サンズが設立したベネシアン社はギャラクシーの二次ライセンスを得たのです。そして第2、第3の二次ライセンスが発行され、当初の「3社への営業権」は実質的に「6社への営業権」となり、それが産業の活況を創出することになったのです。

今ではほとんど忘れられているでしょうが、2002年当時、コタイ地区への投資に関心を持つ人はいませんでした。当初のカジノ建設は旧マカオ(マカオ半島)で行われました。これを一変させたのが2007年にコタイ地区に開業したマカオ初の統合型リゾート施設「ベネシアン・マカオ」です。これ以降、すべての事業者がコタイ地区で開発を始めました。
この間に、また別の大きな変化がありました。VIPゲーミング・プロモーターの急速な成長です。2004年、一部のアナリストは多数のスロットマシンを備えたマス・マーケットの拡大を予測していましたが、反対のことが起こったのです。スロットマシンではなくバカラ(テーブルゲームの一種目)が大きく成長し、VIP客をカジノに連れて来て遊ばせるゲーミング・プロモーター(ジャンケット)の重要性が高まったのです。それゆえバカラでの手数料に上限を設ける必要が生じました。

2013年以降の大きな変化はマネーロンダリング対策、ゲーミングフロアの禁煙化など、さまざまな規制の強化です。マネーロンダリング対策が強化され、お金が動かなくなりました。ほんの少し前まで強力だったVIPゲーミング・プロモーターは深刻な危機に直面し、多くが廃業しました。また、VIPゲーミング・プロモーターのスキャンダルが露呈し訴訟が続き、2016年までにVIP市場の収益は2013年の半分を失いました。
市場関係者とアナリストは肩を落としていましたが、VIPに代わりプレミアム・マス市場の伸びにより、市場は少しずつ回復に向かいました。
カジノ営業権の期限は2020年と2022年でしたが、2016年に中間レビューが行われました。これは2002年のゲーミング産業の営業権開放後の産業を包括するものですが、事前に予告されておらず、事業者にとって予期せぬことでした。結果的にはすべての事業者が合格と判断されました。
2019年には、規制のねじれと言うべき、6事業者間のコンセッション期限のズレ(SJMとMGMが2020年まで、他の4事業者は2022年までだった)が修正されました。ただし、業界が長い間待ち望んでいたこと、すなわち30%もの重いゲーミング税の引き下げはありませんでした。
そしてゲーミング規制上の次の大きな発表はもうすぐなされます。これまで2022年以降も営業権が「更新されるか否か」と捉えられていましたが、ここ数カ月、政府は「再入札」という言葉を使い始めました。コンセッション期間満期後の政府方針はまだ明言されていません。

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