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IRは社会課題解決に繋がるか? 大学生向けワークショップ開催

日本に導入されようとしているカジノを含む統合型リゾート(IR)とは何か、どのような社会問題を解決する可能性を秘めているのか。そして、どのようなリスクが懸念されるのか。これを若い世代に考えてもらうためのワークショップ「ポストコロナ時代の日本社会において統合型リゾート(IR)は社会課題解決として有用か?」が、SHIBUYA QWS Innovation協議会とWASEDA-EDGE人材育成プログラム/グローバル科学知融合研究所により、5月26日にオンライン上で開催された。
これは昨年11月に東京・渋谷のSHIBUYA QWS(渋谷キューズ)で開催されたワークショップの第2弾で、前回に続き、早稲田大学で将来のアントレプレナーやイントレプレナーを育成するWASEDA-EDGE人材育成プログラムに取り組む朝日透教授(早稲田大学理工学術院 先進理工学部・先進理工学研究科)が進行役を務め、ゲストスピーカーにKPMGジャパン IRアドバイザリーグループの丸田健太郎氏、一般社団法人日本IR協会代表理事の中山彩子氏、一般社団法人日本SRG協議会代表理事で精神科医の西村直之氏を招いた。

丸田氏は世界のIRを例示しながら日本に導入されるIRのコンセプトや期待されること、IRを取り巻く環境などを解説。「COVID19は海外事業者に大打撃を与え、日本への投資意欲も後退している」としながら、「(日本IRは)小さく生んで大きく育てるスタイルに変更される可能性がある。日本経済回復の起爆剤として引き続き期待されている」と見解を述べた。
中山氏は長崎・佐世保がIRの要件に盛り込んでいる地域防災拠点機能を例に挙げながら、ポスト・コロナ時代のIRのあるべき形のひとつとして「IR×地域公衆衛生モデル」という視点を紹介した。
西村氏は日本IRの可能性を「健康」の視点から解説。西村氏が代表を務める日本SRG協議会は、「ゲーミング産業に関連する行政、産業、学術、民間社会資源の協働を促し、ギャンブリング問題やギャンブル等依存問題の抑制および解決をはかり、健全で心豊かな社会と国民生活の持続的発展の実現に貢献する」ことを目指す組織。名称は、「Sustinable(持続的な)」「Responsible Gaming(責任あるゲーミング、ギャンブリング)」の頭文字。

西村氏は、IR誘致による地域が抱える社会問題の解決への期待を挙げた上で、「その一方で、カジノがあろうがなかろうが、IR導入によるインバウド増には健康リスクが伴う」と指摘。主要な健康リスクとして、感染症などの輸入病原体による健康被害リスク、医療・福祉ニーズの複雑化と需要の増大、財政のインバウンド依存による健康インフラの持続性リスクを挙げ、これらが「インバウンド・リスク」であると説明した。


「沖縄にはネパールからの研修生が多数おり、数年前から彼らを中心に結核の流行が起こっている。また、2018年には外国人観光客(台湾)によって沖縄に持ち込まれた麻しん(はしか)が流行した。COVID-19の最初の国内感染者は沖縄のタクシー運転手の方2人だった。このようにインバウンドは健康被害のリスクと常に向き合わなければならない。外国人旅行者や就労者など新たな人々を街に呼び込むということは、街自体の構造を変え、医療や福祉のニーズが変化・複雑化する、これにどう対応するかという課題が生まれる。今回のCOVID19の拡大で、カジノ産業からの収益が州の財政の多くを占めている米ネバダ州では、失業率が全米平均の2倍になった。これも観光産業というひとつの産業に依存することのリスクだ」(西村代表)

カジノを含むIRに付随する健康リスクは、このほかにギャンブリングによる健康リスクがある。しかし西村代表は、「健康へのインパクト全体の中で見ると、圧倒的に『インバウンド・リスク』が大きい。ギャンブリング・リスクはギャンブリング施設に依存しているので、そこで対策することでコントロールしやすい。しかし、健康におけるインバウンド・リスクはひとつの自治体で対応するのが難しいほど大きな問題」だと言う。

西村氏は、日本IRに対してCOVID-19が投げかけた大きな課題として次の3点であると整理した。
(1)リスクを伴うIRの、ポストコロナ時代の公的存在意義をもういちど明確化しなければならない。
(2)カジノ収益を経済的中核として発展を描くことの持続性リスク。感染症に限らず、天災、近隣国との関係緊張による訪日旅行者激減などにより、今後も売上減少や事業の中断の可能性はある。
(3)危機管理の新しいスタンダードを考えなければならない。

  *   *
ワークショップでは3人の講演に続き、朝日教授の進行によるパネルディスカッション、質疑応答が行われた。

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