フォーラムの2日目にはリカバリーサポート・ネットワークの代表も務める精神科医の西村直之氏(日本SRG 協議会 代表理事)が『ギャンブル依存問題対策における日本型レスポンシブルゲーミング(RG) のあり方とは』と題した講演を行った。
西村代表理事は、近代のゲーミング産業はここ20年~30年の間に急速に成長した背景には、産業が社会的許容(ソーシャルライセンス)を得るために自発的に考案した、「ギャンブリングによる害を最小化するためのフレームワーク」があると説明。それが「レスポンシブルギャンブリング」(RG)と呼ばれるパブリックヘルス戦略だ。
当然、日本のIRもこの大きな枠組みの中で、世界に認められるものにならなければならないが、西村代表理事は、現代のRGと日本のギャンブル等依存症対策基本法の考え方には隔たりがあると指摘し、RGの変遷の段階を説明した。
① 古典的な“問題あるギャンブリング対策”
当初の古典的な対策は、重度の“問題あるプレイヤー”に対策の焦点をあてこれを減らそうとした。その中心は「発見→治療→ギャンブリングから離脱させる」という医療モデルが中心だった。現在の日本のギャンブル等依存症対策基本法の考え方はこれに近い。西村代表理事は、「どうしてもここからスタートせざるを得ないので、いまの日本の対策がこのフェーズにあることは仕方のないこと」だと言う。
② 初期のRG(1990年代~)
1990年代頃になるとRGの概念が整理され、問題あるプレイヤーの発生予防に焦点をあてるようになった。カジノ施設内において、ギャンブルの問題を持った人をどのように扱うかという予防・教育モデルで、焦点をあてた空間も対象も限定的だった。しかしだんだんと、これではソーシャルライセンスを得るのに十分でないという認識から新たな段階に進んだ。
③ RGの広がり
現代のRGは、問題あるプレイヤーだけでなく問題のないプレイヤーを保護して、いかに持続的に遊んでもらえるか課題にしている。また、地域社会の発展、地域社会との調和に焦点が当てられるようになった。つまりコミュニティヘルスの視点からの予防・教育モデルへと視点が広がった。結果的には現代のCSR(企業が取り組む社会・環境的貢献活動)やESG(企業の環境・社会・ガバナンスに関する非財務的な評価)、SDGsに近いものへとなった。一方、管理・監督の立場の行政も、治療・規制から予防・事業者との協働へと視点を変えていった。西村代表理事は、「シンガポールでもマカオでも、RGの概念はこのように広いものになっている」と言う。
「海外を見てきてわかったのは、『依存問題は脆弱性の指標』だということ。地域には脆弱性と関連した、個人の健康、教育・所得格差、犯罪、福祉資源の不足といった社会的課題がある。ギャンブルがあるから社会課題があるわけではない。依存問題の対策には、地域の脆弱性を改良し、地域社会を活性化することも考えなければならない」と説明した。
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