スキップしてメイン コンテンツに移動

マカオ 「従業員の勤務外のカジノ入場禁止」施行 12月に迫る 

Gaming floor workers will be barred casino entry for off-work hours from December.
文・写真=勝部悠人(マカオ新聞 編集長)
カジノ運営企業の従業員の業務時間外のカジノフロアへの入場とカジノフロア内における業務及びギャンブルへの参加条件を定める法律『規範進入娛樂場和在場內工作及博彩的條件』の改正法案がマカオ立法会全体会議で賛成多数で可決されたのは昨年12月18日。
最大のポイントは、カジノフロアにおける業務に従事するスタッフの、業務外(余暇)時間におけるカジノフロア入場禁止が盛り込まれたこと。具体的には、カジノ運営会社に所属するゲーミングテーブル、ゲーミングマシン、キャッシャー、広報、料飲、清掃、警備・サーベイランスに関わる全スタッフが対象で、さらにカジノ施設内にVIPルームを展開する仲介業者(ジャンケットプロモーター)のスタッフも含むとした。
改正法は12月19日付で公布され、禁足令にあたる部分は1年の経過期間を経て今年12月に施行される。施行が間近に迫った今、各IR関連企業は従業員への説明会を繰り返している。
カジノ運営会社は改正法施行後30日以内にカジノ規制当局(DICJ)に対して対象者の名簿を提出する必要がある。マカオの主要日刊紙「澳門日報」が報じた内容によれば、対象者の総数は約5万4000人に上る。なお、例外として、春節(旧正月)三が日については禁止が解かれるとし、すでに入場禁止対象となっている公務員と同じ扱いとした。
違反者へのペナルティは、1000〜1万マカオパタカ(約1万4000〜14万円)の罰金を科すと規定。取り締まりの方法は、博彩監察協調局(DICJ)の検査官による巡回、カジノ運営企業及び第三者による通報の3つで、DICJが24時間体制の通報ホットラインを設けるとしている。なお、マカオのカジノ施設は入場口での身分確認を実施しておらず(入場下限年齢である21歳未満に見える場合には身分証チェックを実施)、人の目によるチェックが基本だ。よって、対象者数が数万人規模に上るため、他社の従業員も含めた違反者の発見は容易ではないと想像される。

マカオのカジノフロアの入口には身分証明書を確認するためのゲートはなく出入は自由だ
現在は21歳未満の者の入場を禁ずる掲示があるのみだが、実際には公務員の立ち入りが禁止されている。今年12月からはカジノフロアで勤務する様々な職種の従業員およびジャンケット事業者の従業員のプライベートでの立ち入りが禁止される

ギャンブル依存対策の一環

今回の法改正は、マカオ政府によるギャンブル依存対策の一環、つまりカジノフロア勤務者を保護するためと説明されている。DICJは立法会での審議の場で、教育・福祉機関と連携するなどして地域コミュニティにおけるギャンブル依存の予防と治療対策に取り組むマカオ政府社会工作局(IAS)が2011年に立ち上げた「ギャンブル依存中央登録システム」の登録者のうち、無職に続いてカジノディーラーとカジノサービススタッフが多いことを挙げた。このような統計が出るのは、カジノが大きな産業であり従事者が多いことも一因だが、カジノフロアで勤務していると大きなカネが動く瞬間を目の当たりにすることも多く、豪華絢爛な非日常空間にいる時間が長いことも相まって、金銭感覚が麻痺しがちだと言われる。また、ゲームのルールを熟知したディーラーは、自分なら勝てると錯覚することもあるという。
実際、マカオでは、カジノディーラーがギャンブルで借金を抱えた結果、犯罪に手を染める事案は皆無とは言えない。
手口としては、カジノテーブルでの勤務中にチップを制服の隙間などに隠して着服、共犯者を相手に負けた時でもチップを払い出す、もしくは両替を装ってチップを盛るといったものがある。記憶に新しいものとしては2018年1月に、VIPルームのテーブルで勤務中、同じ部屋にいたディーラーに突然「伏せろ」と命じ、その隙に担当テーブルにあった約6億円超のチップを奪って逃走するという大それた事件が発生した。チップは少し分厚いコイン状のもので、1枚約140万円相当という高額なものもある。キャッシャー窓口に持ち込めば、身分証の確認の必要なく簡単に現金と交換することができる。 
ただし、カジノ施設には最新鋭の監視システムが導入されており、不正行為はほぼ露見し、重い刑罰が科される。そのことは、カジノ企業の従業員がなら誰もが承知のはず。つまり、それほどまでに借金などに追い込まれるケースが少なからずあるということだ。
今回の改正法には、違反して入場した従業員のケアも盛り込まれていて、違反者にギャンブル依存の形跡が確認された場合、本人の同意を得た上でDICJからIASに個人資料が伝達され、IASが介入できると規定した。これまでにはなかった潜在的ギャンブル依存者を発見し、治療に導く機会を生み出し、セーフティネットの拡大につなげがることが期待される。
近年、マカオ当局とカジノ運営企業は、カジノ従業員に対するレスポンシブル・ゲーミング啓蒙活動を通じたギャンブル依存対策に力を注いでおり、今後もより積極的な展開が見込まれる。

プロフィール
YUJIN KATSUBE
Managing Director & Editor-in-Chief, "THE MACAU SHIMBUN"
上智大学ポルトガル語学科卒。日本の出版社でレジャー誌編集担当、香港・マカオ駐在を経験。2012年に現地で独立起業し、邦字ニュース媒体「マカオ新聞」を立ち上げる。

コメント

このブログの人気の投稿

オンラインカジノ 日本から100万人超が参加か?

海外のオンラインカジノ事業者が日本市場へのプロモーションを強化している。同じギャンブル系レジャーであるパチンコ・パチスロ遊技者とオンカジの親和性は高いはずだ。 オンラインポーカーに関する情報を発信するメディア「PORKERFUSE」に9月、「Online Gambling Booming in Japan(日本におけるオンライン賭博の流行)」と題する記事が掲載された。 オンラインゲーミング事業者が日本市場に期待していることは間違いないが、現在、導入が進められようとしている統合型リゾート(IR)に関する法律では、カジノはランドベースカジノを前提としている。そもそもカジノは、観光振興政策のためのIRに付随するものなので、国内におけるオンラインカジノ事業の合法化は、この文脈の中ではまったく想定されていない。筆者は昨年1月に、内閣官房でIR推進を担当していた方から直接、「オンラインゲーミングの解禁が議題に上がったことはない」と聞いている。 先の記事は、「日本にはギャンブリングレジャーの種目が少ないというわけではないし、 パチンコ という非常に人気のある娯楽がある」としながらも、これらには物理的な制約があるため、「日本のプレイヤーはますますインターネットに目を向け、海外のオンラインカジノが日本人向けにゲームを提供している」としている。 この記事が指摘しているように、明らかに日本人に向けて、日本語でさまざまな特典を提示してオンラインカジノ・ゲームに誘導しているサイトがいくつもあることから、すでに多くの日本人が参加していると考えるのは不自然なことではない。しかも、そういったサイトの広告を見かける頻度は今年に入り非常に増えたと感じることからも、営業活動を強化していることがうかがわれる。 いったいどれほどの市場がすでに形成されているのかは見当もつかないが、もっとも親和性が高い属性と考えられる パチンコ・パチスロプレイヤー(以下、遊技者) を対象に本誌が8月に実施したアンケート調査の中で、オンラインギャンブル(ライブストリーミング、iGaming、スポーツベットを含む)で遊んだ経験の有無などを尋ねた。   パチンコ・パチスロ遊技者では若年層、高頻度層でオンカジ参加率が高い その結果、調査対象である首都圏在住の20代~70代(各年代のサンプル数は均等に割り付け)の遊技者の27....

メルコリゾーツ 2025年にスリランカでカジノ施設開業目指す

マカオで「シティ・オブ・ドリームズ」などのカジノを含む統合型リゾート(IR)を運営するMelco Resorts & Entertainment(以下、メルコ)は4月30日、スリランカのJohn Keells Holdings(以下、ジョン・キールズ)とのパートナーショップを発表した。ジョン・キールズはコロンボ証券市場に上場するスリランカ最大規模の複合企業グループで、メルコはジョン・キールズがコロンボ中心部で進めている10億米ドル(約1545億円)規模のIR開発プロジェクト「Cinnamon Life Integrated Resort」(2019年に部分開業)に参画する。メルコとのパートナーシップにより同IRのブランド名は「City of Dreams Sri Lanka」に変更され、客室数800室以上のホテル、リテール、飲食店、MICE、そしてカジノを含むリゾートになる。 メルコが全額出資した子会社は、すでにスリランカ政府から20年間のカジノライセンス付与されている。メルコは「City of Dreams Sri Lanka」のカジノフロアと、ホテルの最上階の113室を運営する。同社の発表によると、カジノへの初期投資額は約1億2500万米ドル(約193億円)。 ノンゲーミング施設の完成は最終段階にあり、2024年第3四半期(7月-9月)の完成予定。カジノ施設の開業は2025年の半ばを見込んでいる。 メルコの会長兼最高経営責任者であるローレンス・ホー氏は、「私たちはスリランカには計り知れない可能性があると信じており、この機会は私たちの既存の不動産ポートフォリオを補完するものです。City of Dreams Sri Lankaはスリランカの観光需要を刺激し、経済成長を促進する触媒として機能することが期待されています。 私たちはこの事業を確実に成功させるために、パートナー企業およびスリランカ政府と緊密に協力し続け、地元社会と経済に大きくプラスの影響を与えることを期待しています。」とコメントしている。 スリランカ最大の都市コロンボには、政府ライセンスのもとに営業している地元資本のカジノが4軒が営業している。このうち3軒の客層は明らかに外国人(主としてインド市場)が大多数を占め、「City of Dreams Sri Lanka」の開...

タイの「カジノを含む大型複合娯楽施設」はあっというまに開業するだろう。

多額のお金を消費してくれる外国人客の誘致により経済を活性化させるため、また、違法ギャンブルビジネスへの消費の流出を防ぐために、タイ王国は、カジノを含む大規模な複合娯楽施設(Entertainment Complexesと呼ばれている)を開設する法律的な準備(=カジノ合法化)を進めている。3月28日の下院では出席議員257人中253人が賛成票を投じ、この結果が内閣に送られた。そもそもタイ国王(ラーマ10世)が非常に前向きらしいので、カジノ合法化はほぼ確実とみられている。 日本のカジノ合法化議論の起点をどこと捉えるかは、いろんな見方があるだろうけど、個人的には、石原都知事の「お台場カジノ構想」発表(2002年)によって火が付いたと思っている。だとすると、IR推進法成立(2016年)まで14年もかかったことになる。IR実施法成立(2018年)から国内IR第1号の夢洲IRの開業予定時期(2030年)まで12年もかかる見込み。 こういった日本の状況を振り返り、「タイに実際にカジノを含む複合娯楽施設が開業するのはずっと先のことでしょ?」と思う人もいるかもしれない。しかし、日本の進みの遅さが異常なのであって、タイのカジノは、あっという間にできるだろう。3~4年もかからない。なんせ、タイのセター政権は、法律が成立したら「2年以内にオープンさせる」という目標を掲げているのだから。 そしてタイ労働省は、この複合施設(複数)開設による雇用創出を「少なくとも5万人」と見込んでいる。日本で構想されているIRよりも小型の施設が想定されているため、この雇用者数見込みから逆算すると合計施設数は6~8施設を念頭に置いているのだろう。 立地として目されているのは、国際空港から半径100km圏あるいは特定の観光地域、国境(入国検問所)の近く。地元メディアが例として挙げた地名は、南部ならPhuket(プーケット), Phangnga(パンガー), Krabi(クラビ), 北部ならChiang Mai(チェンマイ), Chiang Rai(チェンライ), Phayao(パヤオ)。 text Tsuyoshi Tanaka

ゲーミング・スタンダード協会 通信プロトコルに関するセミナー開催

アメリカに本拠を置く非営利法人インターナショナル・ゲーミング・スタンダーズ・アソシエーション( International Gaming Standards Association 、以下IGSA)は6月2日(太平洋標準時刻)、ゲーム管理システム(Game to System,以下G2S)についての ウェビナー (オンライン・カンファレンス)を開催。「G2Sシステムはどのようにゲーミング産業に価値をもたらしているか?」というテーマに沿い、ゲストスピーカーそれぞれの立場からG2Sのメリットを語った。 G2Sとは、EGM(電子ゲーム機)と自社システムの間で情報を交換するための、IGSA標準の通信プロトコル。ソフトウェアのダウンロード、リモート構成、リモートソフトウェア検証、ネイティブの組み込みプレーヤーユーザーインターフェイス(PUI)など、多くの高度な機能を可能にする。 ゲストスピーカーにゲーミング業界のスペシャリストとして、Paul Burns氏(Atlantic Lotteriesの戦略&マーケティング担当シニアマネジャー)、Erik Karmark氏(Western Canada Lottery CorporationのGaming and Operations担当バイスプレジデント)、Greg Bennett氏(Alberta Gaming Liquor & Cannabisの技術製品&コンプライアンス担当シニアマネジャー)を招へい。IGSAのMark Pace氏(ヨーロッパ担当マネージング・ディレクター)がモデレーターを務めた。   VLT(ビデオ・ロッテリー・ターミナル)とスロットマシンのシステムと機器の統合に携わってきた立場から、Greg Bennett氏は、「G2Sプロトコルはカジノ管理委員会に於いて認証許可を受けており、これを使用することで得られた最大のメリットはゲーム機器に情報をダウンロードできること」だと述べた。 「ゲームのダウンロード、OSのダウンロード、請求書アクセプターのダウンロード、カードリーダー、さらにはプリンター等々。非常に広い管轄地区内のすべての場所に、技術者が物理的に出かけてソフトウェアをアップグレードするとしたら数カ月はかかるであろう作業が、数時間でできる。これによりソフトウェアの更新をより...

公営ギャンブル 若年層遊技者の6割が参加

公営ギャンブルは新型コロナウイルス禍にあっても無観客でレースを開催し、その売り上げは非常に好調だった。パチンコ・パチスロ遊技者の公営ギャンブル参加者率(=定義:過去12カ月に1回以上遊んだことがある人)は非遊技者の6~7倍と高い。では、緊急事態宣言が解除された5月末以降から8月中旬までの約2カ月半の間、どの程度の遊技者が公営ギャンブルを遊んだのだろうか。 新型コロナ禍前の遊技頻度(2月末までの平均的な遊技頻度)が月1回以上だった首都圏のプレイヤー300人を対象に、Amusement Press Japanが実施したアンケート調査の結果、26・3%のプレイヤーが緊急事態宣言解除から8月中旬までの間も遊技を中断したままで、35・5%のプレイヤーは遊技を再開しているものの新型コロナ禍前よりも遊技頻度が低くなっていた。※詳細については月刊アミューズメントジャパン10月号の記事を参照。 では、調査対象者のどの程度の遊技者が、8月中旬時点に他のギャンブル系レジャーを遊んでいたのだろうか。 新型コロナ禍前の時点で「月1回以上」の頻度でパチンコ・パチスロを遊んでいたプレイヤーの中で、緊急事態宣言解除後~8月中旬までの2カ月半の間に「公営ギャンブル」を遊んだのは 47・0 %。 年代別に見ると若年層ほど遊んだ人の割合が高く、20代では 57・5 %、30代では 61・5 %。40代、50代の参加率は40%台、60代、70代で30%台だった。 公営ギャンブル参加と遊技の関係を見ると、公営ギャンブル参加者率が高いのは「新型コロナ前よりも遊技頻度が増えた・始めた」層で 72・0 %。この参加者の約8割は、以前よりも公営ギャンブルで遊ぶことが増えたという。 逆に、調査対象者の約7割を占める「新型コロナ前よりも遊技頻度が減った・中断している」層では、公営ギャンブル参加者率は相対的に低く40・4%。この参加者の中で、以前よりも公営ギャンブルで遊ぶことが増えた人はわずか10・5%。 あくまで参加頻度という点から見る限りにおいては、「遊技を減らして・やめて、公営ギャンブルを増やした・始めた」というプレイヤーはほとんどいないと考えられる。 他の設問からもうかがえることだが、「遊技頻度が増えた・遊技を始めた」という層は総じてレジャーに積極的で、その多くが公営ギャンブルについても遊ぶ頻度が増えている。 公...